いつか陽が当たる

 高齢者の比率も高い山間の町、岡山県新見市にカネボウチェーン店二万五千店のうち常に売上高ベスト10に入る店がある。その店の専務・長谷川桂子さんは、秘訣は「お客様が気持ちよくなれる店作りが、他の店より少しできているだけ」と謙遜する。
 一度来店したお客様の名前を覚え、次の来店時には「○○さん、いらっしゃい」と迎える。客が見せに入ってくると従業員同士が目で合図しあい、全員が名前を思い出せない時は、一番若い従業員が「あの、お名前伺ってもよろしいでしょうか」と尋ねる。客が名前を名乗ったとみるや、「だめよ、○○さんにお名前伺うなんて」とやる。
 また、お客様にはここを褒めて欲しいというところが必ずある。そこを褒めることを繰り返しているうちに、客は褒められたくて店に足を運ぶようになる。その時は、当然少しおしゃれをしてくる。すると、自然に周囲の人に「いつもきれい」と言われる機会が増えてきて、「あの店に行くようになってからよく褒められる」と感じ、ますますファンになる。
 一度に沢山の商品を薦めずに客を送る時、さりげなく「日差しが強いけど、ちゃんと日焼け対策してる」「寒いけど、お子さん風邪大丈夫」などと声を掛けを販促する。

3つの変化

 マイクロソフトの成毛真さんは、「少なくとも我々の業界では五年前の発想で動いているビジネスマンは、ほとんど役に立たなくなっている。いま、目の前で起きている変化についていけない人は、これから辛いでしょうね。それほど、今日の変化、ビジネス環境なり市場の変化は激しい」と語る。
 そして、会社に必要のない営業マンのタイプとして次の3つを挙げる。
@開発される商品はどんどん変化しているので、商品の進化についていけない人。
A流通経路がどんどん変化しているので、チャネル変化についていけない人。
B自身が成長しなければ変化しているお客様のニーズについていけないので、自分の歳の変化についてこれない人(猪突猛進、組織で売れない、部下を使えないはダメ)。

 つまり、パラダイムの変化を想定し、新しい市場を創出しない人はいらないということである。訪問回数を増やして情に訴えるお願い営業や強引な押し込み営業は通用しなくなり、仮説を立てて提案し、お客様を巻き込んで、一緒になって満足を表現する方向でなければうまくいかない。つまり、市場を創造していくダイナミックな活動が求められる。

仕事をつまらなくしていたのは自分

 郵便局に勤め始めたA子さんは、窓口で切手や葉書を売ったり、保険の書類や貯金通帳を受け付けて必要な処理をしてお客様に返すという変化の乏しい単純作業の繰り返しが嫌になり、司書になろうと大学の通信教育を受け始めたが一年で挫折した。
転職が無理だと悟った時、毎日が楽しくない原因を考えてみた。
言われたとおりの仕事をするだけの機械になっているからかもしれないと思い、思い切ってお客様に話しかけてみたらだろうだろうかと考えた。決心はしてみたものの、最初の一声を出すのにずいぶんと勇気がいった。
「ありがとうございます。いいお天気ですね」これだけ言うだけで心臓はバクバクだが、「本当ねぇ、あなたも大分慣れてきたみたいね」と返事を返してくれた。
 その日以来、窓口に座るのが楽しくなってきた。お客様との世間話に花が咲き、局内が少し騒がしいこともあるが局長も理解してくれた。すると不思議なもので、先方から貯金や保険に入りたいという相談を持ちかけられるようになり、局の成績もグングン向上してきた。あれほど辞めたいと思っていたのが嘘のように、仕事に熱が入るようになり、お客さまに何を聞かれてもいいようにと研修会にも積極的に参加するようになった。